“海外駐在員に提供している福利厚生サービスが、多様化した駐在員のニーズに対応できず有効活用されていない。そこで、駐在員に原資を平等に配分し、駐在員各々が必要とするサービスに利用できるようにしたい。それは国内勤務者向けのカフェテリアプランと同じように。ただ、そのために細かな規程は作りたくない”
規程コンサルティングを行う中で、お客様からこのような「困った」の声をお寄せいただきました。
この企業のように、「福利厚生サービスは設けているけど、うまく活用されない」と頭を悩ませている日本企業は少なくありません。また「コロナ禍での移動や物流の制約を受けたため一時的に福利厚生サービスの利用が出来なくなってしまっている。このような時勢や時代にあまり影響されない新しい福利厚生サービスに変えていきたい」と声を上げる企業も増えています。中には、他社に倣って福利厚生制度を設けたほうがいいと思うけど、駐在員から声が上がらないので何もしていない・・・といった企業もいることでしょう。では、どのような形が今の時代に即した福利厚生サービスといえるでしょう。
福利厚生制度とニーズにギャップあり
例えばこのような制度はありませんか。
「日本食・書籍を購入する際にいくらまで会社補助を出す」という物資送付制度。これは日本の多くの企業が定めているもので、「現地で日本の食べ物や日本語の最新書籍が買えない」という駐在員の「困った」を解消するために設定をした福利厚生サービスの一つです。
さて、実態はどうでしょうか。
例えば電子書籍化が進むこの時代において、紙の書籍を日本から取り寄せたいというニーズは、制度設定当時と比べると高くはないかもしれません。日本の映画を見たい・音楽を聴きたいという場合も、オンライン上で視聴やダウンロードができる時代において、DVDやCDという現物を物理的に手に入れる必要性が下がってきています。以前は日本食が手に入る地域は限定的だったが、任国の輸入雑貨店やアジアンマーケットなどで入手できるという地域は確実に増えてきています。
このように時代は変わっていく中で、既存の福利厚生サービスでは、今の多様化する駐在員ニーズに応えきれていません。
書籍は電子版で読めるから、利用料を物資送付の福利厚生サービスとして申請していいですか?
子女教育は日本から教材を取り寄せる通信学習ではなくて、任国の学習塾に通わせたい。会社負担になりますか?
異文化研修として任国の伝統芸能を体験してきた。この必要は研修費になりますか?
マラソン大会の参加費は、健康維持増進費用になりますか?
実態では上記のような「このような使い方はできますか?」と駐在員から会社側に問い合わせが入っているのではないでしょうか。そして会社側は、その都度、「規程に定められていない判断」を迫られてはいませんか。駐在員からの「困った」に対応するために、多くの企業の中でも「困った」が発生しています。
会社側の「困った」
駐在員の生活環境・時代背景の変化に伴って現行規程にない要望が増え、それに伴う例外対応が増加している。
問い合わせのたびに規程改定の検討や個別の精算作業など手間が増えている。
駐在員の要望に対して迅速かつ柔軟な対応ができず申し訳ない。
せっかくの制度がうまく駐在員に活用されていない。
コロナ禍の制約(一時帰国ができない、物流が止まってしまい日本食の輸入ができない等)で、受けられなくなってしまった既存の福利厚生サービスを別の形で付与してあげたい。
駐在員側の「困った」
現行規程の条件に当てはまらないので、サービスの利用ができない。
会社へ都度相談や問い合わせが発生してしまい、手間と時間を要している。
相談してみたが、特別対応・イレギュラー対応はできないと断られてしまった。
規程に定められていないから会社にリクエストを言いづらい。
何のための「福利厚生制度」なのかーー 基本に戻ると見えてくる新しいゴールとは
本来、福利厚生サービスとはどのような目的で設定したものでしょうか。
生活環境が異なる生活にはストレスがつきもの。駐在員に精神的な負担をかけたくない。
日本にいるときと同様に、情報に触れる機会を維持させたい。
子どもの教育の機会を失わせたくない。
帰国をしたときに”浦島太郎”にならないように、情報共有をしたい。
日本食を購入するために、出費がかさんでしまってはかわいそうだ。
国内従業員に提供している福利厚生サービスを、海外駐在員に提供できないのは不公平だ。
このように海外駐在をすることで、日本で勤務をしていた時には発生しない経済的・精神的な負担や不利益を持たせないように、駐在員のために設定した制度が福利厚生サービスの本来の設定目的でしょう。
「日本食が手に入らないから送ってあげたい」「日本語の書籍を送ってあげたい」という当初の目的は、インターネットの普及やグローバル化によって、駐在員本人が別の形で達成することができるようになりました。そのため、会社側は別の形で、駐在員のストレス緩和・満足度向上・公平性の維持のために新しくゴール設定をする必要が出てきているといえます。
自由裁量権を持たせた「フレックス」導入で解決へ
さて、このように変化する駐在員ニーズに対応ができる福利厚生サービスとして注目を浴びているのが、「Core & Flexの部分的活用」です。
Core & Flexとは、一つの海外駐在員規程を用いて画一的に規程する現行のスタイルとは異なり、必須事項(例えば、ビザ取得や赴任前健康診断などの法令順守コンテンツ)の 【Core】と、駐在員の個々のニーズ(例えば、赴任前研修の要否や引越荷物の物量)に合わせて自由裁量で選択できる 【Flex】に分ける最近急増しているリロケーション制度のことです。
さて、冒頭の「困った」のご相談企業は、このCore & Flex制度のうち、Flexのみの部分的活用をすることにしました。駐在員が会社から付与されたFlexポイントを使い、定められたルールの中で、自己判断・自由裁量で必要なサービスに活用できる制度にしました。これは、日本国内の従業員に対して広く普及している福利厚生制度の「カフェテリアプラン」に似ている考え方と言えます。
ただ、日本国内のカフェテリアプランと異なる点は、Core & Flexには、使用できる商材や利用店舗などのコンテンツが定まっていない点です。国内版カフェテリアプランは「このカタログの中から選べる」というものが一般的ですが、海外版カフェテリアプランであるこのCore & Flexには「カタログ」が存在しません。
具体的な制度設計方法については、次回の記事でご紹介します。
会社側が柔軟性を持つことの重要性
「規程には書いていないけど、こういう使い方できますか」という問い合わせは、多様化した駐在員のニーズと現行制度との「ズレ」がゆえに発生するものです。フレキシビリティを兼ね備えた制度を構築することで、本来達成したい目的に正しくアプローチができるでしょう。
また、問い合わせ自体を減らすことは、会社側にとっても駐在員にとってもメリットは多いです。それは、お互いの「手間の軽減」「業務効率化」だけではなく、「制度利用率の向上」「駐在員の満足度向上」、ついては会社の繁栄につながるからです。
Core & Flexに関しては こちら で詳しくご紹介しています
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