「新しい働き方」が多様化する一方で、何を「勤務地」として税計算を行えばよいのかという新たな悩みの種が人事部門の方々を困らせてします。アメリカやヨーロッパでの場合税務当局がどのように対処しているか、いくつかの事例を紹介したいと思います。
リモートワーカーへの課税
リモートワーカーに課税する権利を持つ課税当局について、簡単に再確認しておきましょう。
選択肢は以下の通りです。
雇用主が主たる勤務地としている税務署の所在地での課税
従業員が物理的に働いている場所での課税
従業員が税務上居住している場所での課税
課税対象の概念
従業員の賃金は、「源泉徴収」と呼ばれる税務上の概念により、労働が行われた場所で課税されるのが一般的です。また、従業員は、どこで税務上の居住者として扱われるかを考慮する必要があります。一般的に、税務上の居住者は全世界で課税されます。
しかし、国によっては税務当局が、同じ給与所得に対して、
雇用者の主たる所在地
労働が行われた場所
従業員の納税義務者の所在地を
を組み合わせて課税しようとする場合があります。その場合、二重課税、相殺税額控除、免税の可能性が生じます。
互恵協定・相殺税額控除の例
例えば、国境を接する米国の州間では、相互主義協定が結ばれており、従業員への課税軽減が認められています。これにより、従業員は居住州でのみ課税され、勤務州では非課税となります。このような互恵協定の例としては、コロンビア特別区、メリーランド州、バージニア州の間の協定や、イリノイ州、アイオワ州、ケンタッキー州、ミシガン州、ウィスコンシン州の間の別の互恵協定があります。同様に、ヨーロッパで働く国境を越えた労働者のためのフロンティアワーカー協定があり、ある国で働き別の国に居住している人の二重課税を軽減することができるようになっています。
リモートワーク時の「主たる勤務地」とは
オハイオ州でのでは、州内の様々な市から労働者に対しても地方所得税(市税)を課しています。市税の税率は場所によって異なりますが、一般的には課税賃金の1.5%から2.5%です。前例では「主たる勤務地」と呼ばれる概念に基づき、雇用主の所在する都市が地方税を課していました。それが、パンデミックによって一変し、オハイオ州でも従業員の多くが自宅勤務となり、「主たる勤務地」=「雇用主の所在する都市」=「地方税の納付先」以外でも働くようになりました。従業員は、自分が働いていない市には地方税がかからないと考えていたため、この問題は非常に大きな争点となりました。
これまでに発生した訴訟事例では、裁判所は概して市側に有利な判決を示し、源泉徴収の要件として「主たる勤務地」の概念を適用することを認めています。その場合、個人は毎年の確定申告で還付を求める必要があることから、これらの裁判のいくつかは、納税者による上訴が行われています。
オハイオ州議会も2021年に法律を制定し、従業員が実際にその都市で働いていない場合、都市で源泉徴収された2021年の地方税の還付を請求することができるようになりました。しかしながらこの法律では、2022年の源泉徴収権や課税権については触れていません。今後課税は、サービスを提供した場所に基づいて行われ、リモートで働く人々の主たる勤務地が事実上変更されることになるものと推測されます。
社会保障費の負担
リモートワーカーの税制を考える上で忘れてはならないのは、社会保険料の負担です。社会保険料を支払うべき場所と所得税の納税地が一致しない場合があります。二国間積算協定により、予期せぬ社会保障費の負担を軽減することができるかもしれません。
越境勤務者、2023年から税制度変わるか
生活する国から勤務先のある国に越境をして勤務している人のことを、フロンティアワーカーと言います。日本ではあまり馴染みのない考え方ですが、労働者の自由な移動はEUにおいては全く珍しくない働き方です。
欧州連合行政委員会が「フロンティアワーカー」に対する社会保障政策を2022年末まで延長することを発表しました。いわゆる「ノーインパクト政策」は、COVID-19の大流行により実施されたものです。その意図は、従業員の居住国や遠隔地勤務の国ではなく、雇用主の所在地に基づいて、従業員の社会保障の適用を継続することにありました。ノーインパクト政策は2022年6月末に期限切れとなる予定でしたが、2022年末に期限切れとなることが決定しました。従業員がどこで社会保障の対象となるかという問題は、特に雇用主の所在地から離れた場所で働き続ける従業員にとって、2023年から変わる可能性があります。
ロックダウンによる混乱
COVID-19の大流行により、リモートワーカーに対するこれらの税務上の考慮事項は複雑化しました。税務当局は、ロックダウン中も現状を維持し、徴税を維持しようとしたからです。しかし、現在、COVID-19のロックダウンは多くの場所で解除されており、基本的な税務ルールは再び施行されると思われます。税務当局は、リモートワーカーに関する徴税にますます関心を寄せています。しかし、リモートワーカーに適用されるいくつかの税法は、労働世界の根本的な変化に追いついていません。
スウェーデンの独自ルール
スウェーデンでは、税務当局が最近、外国企業に雇用されたスウェーデンのリモートワーカーに関するガイダンスの改訂版を発表しています。このガイダンスによると、スウェーデンのリモートワーカーは、必ずしもスウェーデンの会社の恒久的施設(Permanent Establishment)を設立する必要はないとのことです。背景には、恒久的施設(PE)が法人税の引き金となる可能性があるため、このガイダンスの改訂はこれらの外国企業の雇用主にとって朗報となります。しかし、PEが存在するかどうかを判断するためには、リモートワークの事実と状況の分析が必要であることに変わりはありません。
税務当局によるリモートワークの監視
各国の税務当局は、リモートワーカーがもたらす柔軟な働き方によって、税金の徴収にどう影響するかを注視している状況です。この分野の税制の動向を常に把握し、給与報告や源泉徴収が進化する税制のガイドラインに適合していることを確認し続けることが重要です。
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元記事(AIRINC社の情報サイト AIRSHARE)※英語表記
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